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<半兵衛のひとりごと 番外編>
「藤井研日記」

「藤井研日記」

私の学びの場であった藤井研究室は、当時でも異色の存在で、鉄の扉の奥に鉛の空気が漂う、私にとっては常に緊張感溢れる場でした。私がはじめて藤井研の門を叩いた日、藤井氏に「君はうちに来ると思ったよ。」と言われ、嬉しさより恐怖を感じたのを覚えています。そこは受け身で学べるような場ではなく、世界で戦えるスキル求められる戦場だったのです。

ある日藤井氏から、ある画家について書かれた評論文の翻訳を任されました。
数日後、冒頭部分の訳文をチェックしてもらいました。すると藤井氏は、わずか数ページ読み進めたところで、「君みたいな教養のない人に、この論文は無理だよ!」と原稿を机に叩きつけました。私は何度も原文と見比べましたが、すぐには理解できませんでした。数日後、もしやと思うところを見つけ、直して提出したところ、何事もなかったように受理されました。
それは、「物理的」の対義語を「精神的」と訳してしまったところでした。小中学校では確かにそう習いました。しかし、正解は「心理的」だったのです。当時はこんなことすら分かっていなかったのです。その違いはここでは省きますが、そんなエピソードが多々ある研究室でした。神経性胃炎にもなります。

建築家・八束はじめからオファーがあり、藤井氏は私を推薦してくれました。
晴れて藤井研卒業です。藤井氏からの最後の言葉はこうでした。「こういう世界もあるということだよ。」認められた瞬間でした。