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<半兵衛のひとりごと11>       結界 Present Wall/Absent Wall 

 

日本固有の空間構成の特徴のひとつとして、「曖昧性」が挙げられます。内と外を明確に分断することで意味づけられていく欧米の建築に対して、常に境界が曖昧で、場面に応じて変化し、その意味も多様化していくのが日本の建築です。どちらが優れているかという話ではなく、それを求める環境の違いがあったということでしょう。しかし今、高度に分業化/平準化された世界で、それぞれの活かし方が問われる時代になりました。

 

 地鎮祭の際に、綱を張り、その囲われた空間の中で神事が行われるのを経験された方もあると思います。壁があるわけでもなく、綱一本張られているだけなのに、その内と外では明らかに空気感が違います。また、日本料理店等の入口に盛り塩が置かれていることがあります。その神的意味合いについてはともかく、そこを境に空間の質が変わるのは身近な例のひとつでしょう。「結界」という言葉があるように、その空間の質の違いは一般的に認知されたものだと言えます。「間」、「界隈」、「境界」、「奥」等も同様です。

 

 では、これは日本人にしか理解できないものなのでしょうか。いや、対象を知覚し、認知に至るプロセスに洋の東西は関係ありません。人の知覚過程には、普遍的な構造が存在しているのです。そして、その意味を了解する過程で若干ずれが生じます。ゲシュタルトに代表される知に依存しない知覚の体制化と、言語に代表される知に依存する意味の体系化のプロセスの、同時かつ相補的な関係性。このことが理解できると、日本空間の曖昧性を、より有益に活かせる可能性が見えてきます。

 

 物理的に存在し、目に見える壁(Present Wall)。そして、目に見えないが存在を認識できる壁(Absent Wall)。そしてそれに類する壁。これらの組み合わせが、多様な曖昧空間をつくり出し、暮らしに変化をもたらし、豊かにする可能性を秘めています。西洋建築とか、日本建築とか、その切り分け方ももはや意味を持たないのかもしれません。