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<半兵衛のひとりごと05>
「その情報は正しいと言えますか?」

「その情報は正しいと言えますか?」

世の中がネット社会になり、溢れる情報をいかにコントロールするかが課題になっています。一部では、埋もれていたかつての理論が掘り起こされ、良くも悪くも利用され始めた感があります。
営利目的の企業にとって、心理誘導のテクニックはとても魅力的に映るのでしょう。しかし、そこには大きな問題が野放しになっているのです。

一世紀以上前に遡りますが、かつて言語学や心理学が盛んに研究され、様々な実験がなされました。
特にロシアでは国家プロジェクトとして進められていました。芸術家の理論もそれに関連するもので、絵画や詩、演劇、映画、建築に至るまで監理され、政治利用されていました。その後、旧ソ連崩壊に伴い、情報公開(グラスノスチ)により、誰もがその中身を知る機会を得たわけですが、その後の情報管理は野放しだったようです。芸術の分野では、ロシアアヴァンギャルドの先鋭的な作風が当時一大ブームにもなりました。
ザハ・ハディドが香港ピークの国際コンペで磯崎新に拾われ、デビューのきっかけになったのも、彼女のロシア構成主義に影響を受けた作風が磯崎氏の目に留まったからです。中身はともかく。

同様に、各分野の成果は西側で洗練され、よりスマートに大衆に浸透していきました。
ただ、大きく違うのは、西側では営利目的の企業が開発元だということです。
今は禁止されていますが、映画を見るとコーラが飲みたくなるというサブリミナル効果は単純で分かりやすいと思います。現在は更に巧妙になり、規制不可能なレベルでネット社会に浸透しています。

芸術論はあくまできっかけに過ぎず、それを応用するのは企業です。倫理観が求められます。
かつて私は建築家・八束はじめのもと、トーキョー・クリエイティブ・プロジェクトという社会実験の担当を努めたことがあります。大企業が数十社集まり、理想的な未来の生活を思い描き、共通のシナリオに合わせて商品開発するというプロジェクトです。無駄な投資が減り、飛躍的に生産効率が上がると期待されました。企業側も本気で、各社内に専門のプロジェクトチームをつくるほどでした。そこで私は調子に乗って、かつて学んだ言語理論をコンセプトワークに盛り込んでしまいました。しかし、一歩間違うと心理誘導にもなりかねないと気付き、慌てて取り下げました。
相手は営利目的の企業です。各社の倫理観に任せるのは危険だと思ったからです。結局、このプロジェクトは諸事情により頓挫し、事なきを得ましたが、今のネット社会ではそんなモラルは通用しないようです。
何を選択するかは各自の自由です。心理誘導があろうがなかろうが、自分にとって有益かどうか、見極める力が問われます。選択の自由は常に責任を伴うのです。

誰かにとって都合のよい「ものさし」は心理誘導にも利用されがちです。あなたのその「ものさし」はどこで手に入れましたか?誰かが営利目的で無料配布していたものではありませんか?

 

(追伸)
「半兵衛のひとりごと」シリーズは、編集の都合上、大幅に内容をカットしてあります。補足説明がないため、誤解を招き兼ねない記述も多々あると思います。お気を悪くされる方もあるかも知れませんが、あくまで「ひとり言」だとご理解いただき、何卒ご容赦願います。